フォルクスワーゲンのこれからに注目
(タイヘン、ワーゲン)
フォルクスワーゲン(以下、VW)が米国でディーゼル車の排ガス規制にかかわる当局検査を不正にパスしていたという詐欺行為が明るみになりました。不正に検査をパスしたディーゼル車については全世界で1,100万台販売されているといわれ、フォルクスワーゲンはその対策費用8,700億円を公表しましたが、それにとどまらず米国当局による課長制裁金が2.1兆円課せられるとも報じられております。これをうけてVWの株価は不正発覚前の3分の2に下落。またそのあおりをくらってか自動車関連株が下がっているとも聞きます。
米国におけるディーゼルの排ガス規制は日本や欧州よりも厳しく、市場が求める燃費や動力性能に関する目標を達成しつつ、この規制をクリアするには技術的なハードルが高いです。しかしだからといって不正を働くことは許されません。今回の事件に関してはVWを弁護する一遍の余地もないでしょう。
さてここからは自動車マニア的な記事であります。
世界の自動車市場の中で、近年中国が急拡大するまでは米国は最大の市場でした。その米国で人気があるモデルはピックアップトラックやSUVなどのアウトドア志向のモデルである一方、サルーン系モデルとしては、ボディサイズが大きいモデル、ハッチバックよりもセダン、マルチシリンダー(6気筒以上)が好まれます。上記の傾向はメーカーとしても付加価値をつけやすく、儲けを出しやすいです。
しかし一方でVWにとっての金看板はゴルフですが、サイズはCセグメント、いわゆるコンパクトクラス。ハッチバックで4気筒がメインとなり、米国市場の嗜好にはミートしません。VWが特別プレミアムなブランドイメージがあるわけでもないゴルフを売る際には日本車はじめ他のCセグメント競合車と平場の競合にさらされています。
(ゴルフ以外のビートル、ジェッタ、アウディA3はいずれもゴルフの派生車種。パサートも新型シャシーであるMQBを共有したノンプレミアムモデルです。)
一方でもともと米国はガソリンが安く、自動車ユーザーは燃費に関してそれほどナーバスではありません。(だからこそ上述のとおりボディサイズは大きいモデルが好まれる。)したがい燃費のよいからといってガソリン車よりも価格が高くなりがちなディーゼル車をわざわざ選ぶ人は限られておりました。
そこでVWはディーゼルモデルをゴルフのバリエーションとして米国でも積極的に導入して、同国のディーゼル市場の開拓に力をいれてきました。
しかしながらCセグメントで価格競争にさらされるゴルフにとっては製造コストに制約がかかるなか、米国の規制をクリアできるディーゼルモデルのゴルフにどれだけのコストをかけることができたのか。米国におけるゴルフの販売台数は多くはなく、かけられるコストには制限があるでしょう。そのような中で規制をクリアするために安直な制御ソフトの細工に走ってしまったのか。
ゴルフはVWにとって大事な金看板であることは上述のとおりですが、米国での販売は決して華々しくはありません。米国における不正発覚は同国における販売に打撃を与えますし、他の国での販売にも影響を与えることでしょう。VWはいまや世界販売台数No.1をトヨタと争う一大企業グループです。しかし米国での2014年の自動車販売台数をみるとトヨタ273万台に対して、VWはわずか37万台です。中国とならぶ一大自動車市場である米国にてトヨタとこれほどの差がついているVWはなんとしても米国での販売を伸ばしたかったのでしょう。
(出所:変化の先頭にMARKLINES 自動車産業ポータル 自動車販売台数速報 米国2014年)
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VWはこれから立て直しの始まりです。ブランドイメージは失墜しましたが、米国では比較的買いやすい価格帯でありさえすれば、マイカーを求めるマス顧客層が依然として存在します。日本ではディーゼルではなくダウンサイジング+ターボが導入されており、販売への影響は軽微でしょう。中国ではVWやアウディを求める顧客にとって、仮想敵国の米国での不正などお構いなしでしょう。一番のダメージは販売の約半分をディーゼルが占める欧州です。ここは地道な信頼回復に努めるほかありません。
それよりもVWには根本的な問題があります。それはVWがゴルフ(とその派生車種)という単品商売で成り立っていることです。たしかにゴルフはよくできたコンパクト・ハッチバックであり、通常の3~4人家族であればこれ一台あれば大抵の用途をこなせます。欧州でも日本でも良い車としての評価が定着しているでしょう。しかしながらこのあまりにメジャーなモデルになったゴルフの陰で第二、第三の柱となるモデルが育ちにくいというジレンマがあります。
VWとしてはもっとゴルフよりも上のクラスでより多くの利益が期待できるDセグメント、あわよくはその上のEセグメントにて収益の橋頭保となるモデルを展開したいのがホンネでありました。1990年代には創業者一族であるフェルデナンド・ピエヒの経営のもと上位モデルへの進出を目指した時期もありましたが、しかしながら成果はいまひとつに終わっています。
米国では上述のとおり、その市場の嗜好からコンパクト・ハッチバックのゴルフの販売は伸び悩みます。それを打破するためのディーゼル車の導入でしたが、その目論見に対していまや現実は真逆の方向になろうとしています。
VWが自社固有のブランドでの米国販売の伸長が限界ありと判断すれば、次はゴルフでは応えられない顧客のモデルニーズに対して他のメーカーなり、その一部のブランドなりを買収することで対応していく術を考えるでしょう。いまやVWは主要な乗用車ブランドだけでもシェコダ、ベントレー、ブガッティ、アウディ、セアト、ランボルギーニ、ポルシェなどを傘下におさめています。M&A大好きVW。あ、スズキという失敗事例もありましたね。
そこで反転攻勢として、VWはディーゼルの排ガス規制の不正問題が沈静化したころを見計らい、新しい買収に動き出すという手も考えられます。
ひそかに捲土重来を期して、たとえば只今絶好調のマツダや富士重工あたりを資本参入先の候補としてひそかに研究していたりするかもしれません。
VWはこのまま座して何もせずで終わる自動車メーカーではないことを期待しつつ、今後の動向に注目です。
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コメント
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お世話になっております。
今回のVWやBMWなどボッシュ系のプログラムが軒並み怪しいそうですね。
クリーンディーゼルを乗っているものとして今回の件は遺憾に思っています。
マツダや富士重工との提携を考えていると予想しているのが面白かったです。
信用は失墜しましたが、今後の早期復活を望みます。
ゴルフはやはりいい車です。
投稿: ニシ | 2015年9月27日 (日) 08時39分
ニシさん
コメントありがとうございました。
買収候補先は推測にすぎませんが、M&A大好きなVWですから今後も何かあるかもしれません。
ご指摘の通り、ゴルフはいい車です。
投稿: WATANKO | 2015年9月27日 (日) 11時07分