【不動産投資DEAD OR ALIVE 第2話】物件の表面利回りに惑わされてはいけない。実質利回りの予測を忘れずに
■不動産投資の利回りには表面利回りと実質利回りがある
不動産投資の利回りにはいろいろな表示方法があります。代表的な利回りとして年間賃料収入÷物件の取得価格=表面利回りがあります。これに加えて賃貸期間中にかかる税金や経費などを年間賃料収入から差し引いた金額を分子に置き換えた実質利回りが概念としてよく用いられます。
実質利回りは表面利回りを下回りますが、問題はどの程度下回るかであります。それは付帯費用や税金といった支出がどれくらい発生するかに寄ります。主要なものをあげてみると次のとおりです。
<支出面の主要項目>
①固定資産税
②管理費や保険料(火災・地震・物損など)
③修繕維持費
④リニューアル費用
①や②は予測しやすくかつ発生も想定からブレることは少ないですが、③はいつ、どれくらい発生するのか予測が難しい面があります。通常は修繕維持費向けの資金を別途しっかりと積立しておくことが無難な対策でしょう。④に至っては物件の価値を上げて後述する空率室の抑制や値下げを回避するための資本的支出であり、これについてはどれくらい費用をかけるかは所有者の方針次第です。
【検討課題1】
所有物件をリニューアルしても、かけた費用分に見合った収益の維持ないし改善が見込めるのかどうか
外観を流行にあわせて再塗装して小綺麗に見せる。IT・通信関連の設備を追加する。ちょっと変わったところではぺット可に切り替えるというものあります。(この場合、退去時のリフレッシュ費用が余計にかかる等が想定されます。)
一方でリニューアルを見送ることで空室が多少増えたとしても、費用をかけずに済むことでトータル収支は、費用をかけて空室を減らした場合よりもむしろ良いという算段も成り立ちます。多少物件がヤレで見えても、その分賃料を下げてくれれば低賃料を希望するニーズを満たし、空室率が案外抑えられるという展開もありえます。
■収入面の下振れリスクもお忘れなく
さらに実質利回りを引き下げる要因として上記の支出面のみならず、収入面の下振れリスクもあります。
<収入面の下振れリスク>
①空室率の上昇
②値下げロスの発生
①は新築物件であっても通常は10%くらいは見ておくべきです。新築物件は入居者の退去が発生しても物件が新しいため、すぐに次の入居者が決まることが期待できますが、それでも退去から入居の間に1~2ヶ月は空いてしまうことはざらです。2ヶ月空くだけでその物件からの賃料収入はその年は17%ダウンしてしまいます。
②についても、一定の金額を見ておく必要があります。アパートでは新規入居時あるいは契約更新時に入居者から数千円程度の賃料値下げ交渉を仕掛けられる事例をちらほら聞きます。事業用の賃貸においても賃貸先の事業が芳しくないと賃料の引き下げを交渉されることも皆無ではありません。
【検討課題2】
入居者から値下げ交渉を受けた際にこれを突っぱねるか、それとも受入れるか
前者の場合、新規契約が流れたり、入居者が契約更改に同居せず退去するという可能性があります。これは家主として市場の動向と相手の心理をどこまで読むかということになります。
-自分の物件の競争力を考慮すると新規契約が流れても、次の賃貸希望者がすぐ見つかる可能性は十分見込めると判断できるか。
-契約更改時に値下げに応じないと、入居者は本当に退去してしまうものか。例えば月額数千円の賃料削減のために新規の賃貸契約に係る費用や引越費用など合計数十万円を自己負担することになる。入所者はこのあたりの損得勘定をどこまで考慮しているのか。
-賃料は一度引下げると値上げは難しいです。また値下げは近隣の市場価格全体の引き下げにもつながります。(価格競争を引き起こす。)それは巡り巡って自分の物件の将来の賃料にまた跳ね返ってきます。よって賃料の値下げは極力先に引き延ばしたい。
など等をいろいろ想像を張り巡らせて値下げに応じるか否か決断していかねばなりません。
現実的な折衷案をひとつあげるとすれば賃下げ要求額の1/3から半額程度の金額で合意を取り付けるなどが考えられます。もちろん値下げに応じないという強気に出る方針もありますし、ここではそれを否定するわけではありません。
なお賃料の値下げは具体的な値下げの要求が発生した場合だけでなく、空室率の上昇が顕著になってきた際にも検討すべき課題です。むしろこちらの方がよくあるケースかもしれません。
人口減が進行する一方で、新築物件が増え続ける中にあって、自己保有物件の空室率や賃料が未来永劫ずっと変わらずに一定ということは考えにくいです。一定の下振れリスクを忘れることなく、考慮しておくべきでしょう。ただ下げればいいというものではありません。値下げしただけの効果が期待できないと賃料値下げ前と後で空室率が同じという笑えない現実に直面するかもしれません。
■まとめ
冒頭にふれたとおり不動産投資の利回りには表面利回りと実質利回りがあります。前者の算定はいとも簡単であり、それゆえに不動産物件の価値を表示する指標としてよく用いられます。
しかしよく考えてみてください。表面利回りに用いられる分母・分子の金額はともに売り手の都合によってあらかじめ決められた価格に過ぎませんし、そこにはマーケット価格との乖離をはらんでいます。
現実は表面利回りで計算された利益など手にすることはありえず、述べてきたとおり支出面と収入面のそれぞれにて利回りに欠け目をもたらす項目があること十分考慮する必要があります。
高い表面利回りを一度目にすると、(買い手本人の要望もあって)それが心理的なアンカーになりがちです。
しかし不動産投資においてはそんなかりそめの利回りともいえる表面利回りに惑わされずに、実質利回りをできる限り予測するセンスを忘れずに持ちたいものです。
とはいえいくら頑張っても賃間中の実質利回りの平均を事前に予測するのは難しいです。
そのような中にあっても、最後に大雑把ではありますがWATANKOの経験から言わせもらえれば、賃貸事業における実質利回りは表面利回りに対して半分強程度確保できれば十分成功ではないでしょうか。表面利回りが10%なら5~6%程度というところです。
十分なる情報収集力と明晰なる判断力をお持ちである個人投資家諸氏におかれましては、この利回り水準が他の投資対象と比較してどれほどの意義があるかわかることでしょう。
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コメント
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WATANKOさん、はじめまして!。ひなた、と申します。(男性)
以前から、ブログを拝見しています。
WATANKOさんの記事は、温かみというか人間味があって好きです。
私は、不動産投資は関係ないですが、インデックスファンド歴が長いです。
私は、アパートを借りるほうですが、最近は「サラリーマンの保証人を2人欲しい」など言われるケースがあり、苦戦しています・・・。
では失礼します。
投稿: ひなた | 2016年2月22日 (月) 23時22分
WATANKOさん,こんにちは
投資対象が似ているのでちょこちょこ訪問させて頂いております。
>表面利回りが10%なら5~6%程度というところです。
十分なる情報収集力と明晰なる判断力をお持ちである個人投資家諸氏におかれましては、この利回り水準が他の投資対象と比較してどれほどの意義があるかわかることでしょう。
→インデックスでの株式投資の利回りを長期で5~6%と考えれば,色々な手間が掛る不動産投資に妙味は無い・・というのがWATANKOさんの結論ということですかね。
投稿: インデックス投資家 | 2016年2月23日 (火) 15時22分
ひなたさん
コメントありがとうございます。
>以前から、ブログを拝見しています。
>WATANKOさんの記事は、温かみというか人間味があって好きです。
ありがとうございます。照れます。
なるべく自分の言葉や言い回し(それとて誰かの文章表現を潜在的に真似ているだけかもしれませんが)をもって書いているところに人間味を感じ取ってもらえているかな...。
>私は、不動産投資は関係ないですが、インデックスファンド歴が長いです。
そうですか。どれくらい長く、どんな商品を保有されているのでしょうか。
>私は、アパートを借りるほうですが、最近は「サラリーマンの保証人を2人欲しい」など言われるケースがあり、苦戦しています・・・。
いまやサラリーマンとて収入安定(保証能力十分)とは言い難い世の中ですが、それでも2人も確保せねばならないとは大変ですね。保証会社を起用できる選択肢があるとよいのですが。
投稿: WATANKO | 2016年2月24日 (水) 00時42分
インデックス投資家さん
コメントありがとうございます。
>インデックスでの株式投資の利回りを長期で5~6%と考えれば,色々な手間が掛る不動産投資に妙味は無い・・というのがWATANKOさんの結論ということですかね。
遠回しな表現でわかりにくくてすみません。ご指摘のとおり表面利回り10%すなわち実質利回り5~6%では手間暇をかけたわりには証券投資と大差なしで妙味なしという趣旨です。
ただし10%が普遍的な表面利回りというわけではなく、もっと高い場合には実質利回りも高くなる可能性あります。しかし高い表面利回りを探すというのは言うは易し、行うが難しでありますし、売り手が勝手に高い利回りを唱えることもできますので、注意が必要です。
投稿: WATANKO | 2016年2月24日 (水) 00時46分