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2016年2月 1日 (月)

フォードの日本撤退によせて

20160201ford

(フォードのHPより)


先週、フォードが日本市場から撤退すると報道されました。WATANKOはついにその日がきたかという印象であります。

■車好きのWATNKOの記憶にあるフォードの日本市場における展開


【1980年代】

フォードは当時からリンカーンに代表されるいかにもアメ車な大型セダンや、マスタングという元祖スペシャリティカーを売っていました。ちなみにフォード・リンカーンという名称は日本車に例えるなら「日産・伊藤博文」みたいなものであります。プレジデントにそのような名前を付けて御料車として納入したらすごいですね。

また当時資本下にあったマツダにも姉妹車を仕立てさせ、フォードブランドとしてオートラマチャンネルで販売していました。一般的にはこちらの方が馴染みがあり、中でもBセグのハッチバックのフェスティバ(初代)はキャンパストップ仕様がおしゃれで当時なかなか人気でした。

【1990年代】
当時、日米自動車摩擦が起こる中、アメリカのビック3は日本市場への進出に躍起になっていました。そんなところへきて幸いなことに中型セダンのトーラスが米国同様、日本でもヒットします。(ちなみに中型とは米国での話であり、全長4.8mもあるので日本では立派な大型セダン。当時、米国ではカムリやアコードと販売台数を競っていた中核モデルです。)トーラスは日本人にも受け入れやすい伸びやかでかつほど良く抑揚がきいたデザイン、ベンチシートや大きな荷室(ワゴンモデル)がアメリカンな豊かさをアピールしていました。

ちなみにフォードブランドのもう一方の台数稼ぎ役であったマツダの姉妹車モデル群にはFMCした二代目フェスティバやクレフ(マツダのクロノスのフォード版、先代はテルスターと呼称)がありましたが、車の出来も販売もいまひとつでありました。

【2000年代】
メルセデス・ベンツやBMWがCセグメント以下に進出してくる。アウディが高級ブランドとしてこれら2社に伍するようになってくる。ボルボが安全イメージを前面に販売を伸ばす。プジョー&シトロエンがモデルバリエーションを増やして幅広いニーズに応える。などなど欧州系メーカーが日本市場に注力する一方、フォードはこれらに対抗するべき魅力的なモデルの投入ほかのマーケティングが進まずどんどん劣勢に陥ります。

ついに年間販売台数は2015年でおよそ5,000台ほどでした。

WATANKOの私見ですが、各輸入車メーカーのこれまでの販売台数の実績をみると、輸入車が日本で販売を維持できる分岐点となる販売台数は、少なくとも10,000台程度は必要ではないでしょうか。


■米国モデル=日本市場にあわない、欧州モデル=特徴に乏しい

フォードといっても大別すると米国モデルと欧州モデルがあります。米国モデルは大型セダン、SUV、スペシャリティカーなどのいかにもアメリカンで特徴あるモデル。それらは大きさの割にはお買い得感ありのビックマック+ポテトのLサイズな印象です。

一方、欧州モデルやB/Cセグメントのハッチバックなど定番モデルが中心であり、欧州内ではVWやオペル/ボグソールなどノンプレミアムクラスで競合しています。

ところが米国、欧州それぞれのモデルを見ていると、はたして日本市場で売る気があるのかといわんばかりの仕立てでした。

米国モデルはまずもって右ハンドル仕様がほとんどありません。高い品質と信頼性を日本車に接してきて目の肥えた顧客に対して、米国車が提供するそれは決して高くはありません。日本車に比べてボディのチリは合っていないし、パネル間の隙間も大きいです。内装は値段の割にはプラスチッキーで、質感も高くはありません。

それであれば、最低限の使い勝手と取りまわりだけでも満たすために、せめて右ハンドル仕様だけでも揃えてほしいものでした。

その結果、いまやラインナップに残っているのはエクスプローラーとマスタングと一番、米国フォードらしさが残るモデルだけになりましたが、換言すれば固定客にすがって販売しているだけのラインナップであり、これだけで台数をかせげとは無理な注文です。

ではもう一方の欧州モデルはどうかというと右ハンドルを用意し、ボディサイズも程よいモデルを揃えました。

しかしフォーカスやフィエスタはまずもって特徴に乏しくエクステリア、インテリアともに印象に残らない、一度見かけたくらいではすぐに忘れさられそうなデザインです。

さらに日本車との対比ではHV、EVにディーゼル、そして各種自動安全技術満載の日本車に対抗するだけのエンジンやドライブトレーン等にも売りがありません。また価格面でも代表的な日本車と比べると次のとおりであり、到底太刀打ちできません。

●フィエスタ1.0リッター、直3ターボで2,360千円。
●ホンダ・フィット1.3リッター、直4で1,300~1,664千円

●フォーカス1.5リッター、直4ターボで3,090千円
●マツダ・アクセラ2.0リッター、直4で2,430千円

それでは他の輸入車のパイを喰えるかというと、日本市場でめっぽう人気があるVWゴルフやその弟分のポロを相手に戦うには独自のセールスポイントが無さすぎます。しかも一時期は販売撤退するなど営業的にも不利な情勢下にありました。

誤解してないでいただきたいのはフォーカスやフィエスタといった欧州モデル決してダメダメ車というわけではありません。しかし総じていえばモデルに特徴が乏しく、WATANKOがたとえフォードに多少の関心があったとしてもフォーカスやフィエスタをあえて買う理由はどこにもみつかりません。欧州系の自動車雑誌(日本版も購読できます)ではこれらのモデルの操縦安定性に高い評価をつける記事も散見されますが、操縦安定性などと一番わかりにくい魅力では一般の顧客にはなかなか伝わりません。

こうしてみると日本の自動車市場の椅子取りゲームにて、フォードが座る椅子はハナからなかったと言われても仕方がないでしょう。

■「鶏か卵か」論をやっているうちに円安でとどめをさされた

自動車ビジネスに限った話ではありませんが、「販売実績がでないから市場に適合するための投資ができない」のか「市場に適合するための投資が進まないから販売実績がでない」のか「鶏が先か卵が先か」という議論があります。

しかしこうしたジレンマな議論をやっているうちにフォードもまた売れない⇒費用を掛けられない⇒ますます売れないという負のスパイラルに陥ってしまい、とうとう今回の結果となりました。

以上のような状況は昔からありましたが、それでも今回、フォードが日本撤退を決めたトリガーとなったのはここ数年の円安でありましょう。

販売台数が少なくて損益分岐が高いと思われる日本のインポーターがフォード車をドル建てで仕入れれば仕入れ価格の高騰で経営が成り立たなくなってしまいますし、円建てならフォードにとって、ただでさえ少ない収益がさらに悪化して、撤退ルールに引っかかるでしょう。

どちらの通貨建てであっても円安になったおかげで日本におけるフォード販売はとどめをさされた格好です。今回の円安は2013年からスタートしていますから、それでもフォードは3年間我慢したのかもしれません。

フォードは今回、日本市場から撤退しますが再参入はありえるでしょうか。日本に限らず自動車メーカーが自国以外の海外にて販売を伸ばすためには、彼の地にて膨大な投資と時間が必要です。それに見合うリタ-ンを得るための、勝算が見込めるマーケティングをしっかりと練ってからかからないとすぐまた敗走することになります。

WATANKOから現実的なアドバイスをするとなれば、フォードの特徴が色濃く出るモデルに限定したニッチなモデルを日本市場向け仕様にしっかりと仕立てて、昔のよしみでマツダのディーラーで併売してもらうことくらいです。

さらにそれでも数を狙ってフォーカスやフィエスタの次世代モデルでも投入する戦略であれば、その値付けは日本車並みにしろとは言わないまでも、VWよりも明確に低価格にしないと見向きもされないでしょう。

とこうしてWATANKOも書いてはみたものの、フォードからみればコストがかかり、限られた販路で、さらには安売りもしなければならないとはなんとも美味しくない戦略であります。

(あとがきにかえて)

コアなフォードファンで新車をご希望される方々におかれまして、すぐさまディーラーに出向き在庫整理モードに突入したエクスプローラーやマスタングを安く買うチャンス到来です。時間が経つと希望する仕様の在庫が無くなってしまうかもしれません。

このブログを眺めている場合ではありません。

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