トンデモ不動産投資のダイレクトメールにご用心
WATANKOが自宅の新築を発注したハウスメーカーからは、長らく「マイホーム新築を検討されているお知り合いをご紹介ください。」という趣旨のダイレクトメール(以下、DM)がひっきりなしに送りつけられてきました。
それが最近は資産形成を目的とした投資用不動産の勧誘DMに切り替わってきました。
今回、不動産投資の勧誘DMの一つの事例として取り上げてみます。
■勧誘文句を吟味する
先ず、そのDMに唱われた勧誘文句の見出しを並べると次のとおりです。
資産を持って人生を豊かに 将来の資産設計はマンション投資がいちばん、いい!メリット1.家賃収入で「私的年金」を!
老後は安定した家賃収入を得ることが私的年金につながります。高利回りも魅力です。メリット2.節税効果にも期待!
不動産所得から必要経費を差し引き、赤字になるとその分給与所得から相殺され、税金が軽減されます。メリット3.少ない資金でもオーナーに!
提携ローンを活用して、少ない自己資金でもオーナーになれます。メリット4.生命保険の代わりに!
もしもの時にも残債は保険で支払われ、家族には不動産所得を残せます。
それぞれのメリットについて、冷静なるレビューを添えるとなれば以下のとおりです。
メリット1.家賃収入で「私的年金」を! 老後は安定した家賃収入を得ることが私的年金につながります。高利回りも魅力です。
⇒「私的年金」とは公的な年金では心配なシニア向けに、宣伝文句としてよく使われるキーワードです。その私的年金とは何も不動産投資からのリターンだけに限らず、他にもいろいろな手段があります。
またよく読めばかかれているのは「家賃収入」であり、これはイコール手取り利益というわけではありません。さらには後述しますが、高利回りも大変怪しいです。
メリット2.節税効果にも期待! 不動産所得から必要経費を差し引き、赤字になるとその分給与所得から相殺され、税金が軽減されます。
⇒これはおそらく確定申告によって給与所得と不動産所得とを損益通算できることを指しています。
しかしよく考えてみると上記文句をそのままにとれば、これはそもそも不動産所得が赤字になることを前提としています。DMで勧誘する不動産投資はメリット1で高利回りを唱っているのに、ここでは赤字を前提としてアピールをしています。
「なんじゃ、そりゃあ」な世界です。
メリット3.少ない資金でもオーナーに! 提携ローンを活用して、少ない自己資金でもオーナーになれます。
⇒個人に多額のローンを抱えさせることをさらっと書いています。シニアの場合、若い人よりも通常は人的資本が減っているので、ここでは大いに慎重に考えるべきであることは言うまでもないでしょう。
ましてローンの際の与信が足りないからといって、自宅を追加の抵当にいれることなどは破滅への序曲になりかねませんのでご注意下さい。
メリット4.生命保険の代わりに! もしもの時にも残債は保険で支払われ、家族には不動産所得を残せます。
⇒世の中に生命保険が必要な個人であれば、まさにニーズにあわせた生命保険に加入すれば、それで終了です。なぜ複雑な代替え手段を採用する必要があるのでしょうか。
さらにここにはもうひとつ心配事をあげておきます。不動産投資を行っている当人が死去や重度の病気や怪我により、突然、不動産投資を継続できない事態になった場合、どうするのか。残された家族に不動産投資を引き継いでもらわねばなりません。例えただちに売却することにしても売り急ぐあまり買い叩かれたりして、トータル収支が悪化する、ローンが残るといった事態に陥らなければよいのですが。
■提案されている利回り
それでは次にDMでは、どの程度の利回りを提案しているのか。そこで紹介されている都内の新築1DKのケース(2,780万円)での表面利回りをみてみると次のとおりです。
管理委託型 想定表面利回り4.31%借り上げ型 想定表面利回り3.66%
タイポではありません。これは確かに表面利回りです。
しかも欄外に小さくこうも書かれています。
管理委託型>シミュレーション・年間収入見込は、公租公課その他の必要な費用を控除する前の金額となります。 借り上げ型>2年毎に賃料は見直しさせていただきます。
欄外に書かれていることを考慮すると、公租公課その他の必要な費用を控除後または賃料見直し後(実態はほぼ値下げと考えてよい)ベースの実質利回りは、上述の想定表面利回りを必ず下回ります。想定表面利回りがこれほど低い水準では、実質利回りとしてはおそらく手元にはお金がほとんど残らないのではないでしょうか。
などと懸念して、更に読み進めると管理委託型、借り上げ型それぞれに提携ローンを活用した収支も提示されています。これによって実質利回りについても一定の試算が記されています。以下にDMの記載を貼り付けます。
自己資金に余裕があり(2.780万円のうち、1,780万円を借り入れ)、かつ35年ローンの
場合が一番利回りがよいのですが、それでも年間33万円。率にしてせいぜい1.2%です。その他のケースではさらに利回りは低く、自己資金を小額、すなわちほとんどを借り入れる場合、35年間赤字が続く格好です。一体これは投資なのでしょうか。
ここで紹介された事例どおりであるならば、もうまさにこれは多額の資金をぐるぐる回して建築業者、不動産仲介業者、金融機関に利潤を落とすだけのオーナー不在の循環取引のようなものです。
■まとめ
DMにはこうもかかれています。
マイナス金利時代到来!! 預貯金や株・FXよりも安定した「不動産投資」をはじめませんか?
インデックス投資を始めた頃のWATANKOと同様、世の中には預貯金のリターンに満足できず、一方で株・FXのリスクを許容できない個人が世の中に少なからずいることでしょう。
不動産投資が預貯金や株・FXよりも安定している、さらには高いリターンが期待できるかどうかはともかく、手間暇がかかる投資法であることは明らかです。
それに対して少なくとも今回、WATANKOが受け取ったDMに書かれたケースでは、他の投資方法と比べて全く投資の妙味が湧いてこない利回りです。
もしも紳士淑女の皆様のご自宅の郵便受けに不動産投資のDMが届いた時、そのDMにかかれた情報をどう判読するか。手間暇に見合う利回りと受け止められるか。
今回の事例とさして変わらない内容であれば、それはやはり「トンデモ不動産投資のダイレクトメールにご用心」と言わざるをえません。
(あとがきにかえて)
最後に、今回同様に新聞の宣伝広告で拝見した不動産投資についてのツッコミ記事を紹介しておきます。
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