あなたはいまさら松井証券に口座を開設しますか
(どこまで流行るか。)
自動車メーカーでも投資信託の運用会社でも、後発参入組と称される者はマーケットの存在と競合先をよく把握して、必要な差別化をもって利を得るべく挑んでいきます。
さて、ネット証券会社の中堅どころの1つであります松井証券が投資信託販売に再参入するそうです。
■松井証券のユニーク(固有)なサービス「投信工房」
松井証券の公開資料によると、投信を組み合わせてポートフォリオという「作品」を作り上げるためのプラットフォームを「投信工房」と銘打っています。そのサービス内容は以下のとおりとてもユニーク(固有)であります。
1.取り扱い商品はすべてインデックス投信
低廉なインデックス投信7シリーズを取り扱います。ただし残念ながらFunds-iやiFreeは含まれていません。将来は追加される可能性があるかもしれませんが。
2.ロボアドバイザーによるポートフォリオ提案
利用者が8つの質問に答えることによって、ロボアドバイザーが利用者のリスク許容度を分析し、3つの運用コースから選ばれた1つと組み合わせることによって「モデルポートフォリオ」を提案します。
3.一括購入、リバランス積立など購入方法はいろいろ
モデルポートフォリオをひな形として、利用者が目標ポートフォリオを決めます。それに基づき一度の操作で複数の銘柄を「一括購入」したり、ポートフォリオの比率を一定に保つために積立購入額の商品別内訳を自動調整して買い付けする「リバランス積立」などの、機能を提供していきます。
さすが後発だけあって、リスク許容度を測り、ポートフォリオに決めて、インデックス投信を積立買い付けする個人投資家に対して、これでもかというくらい利便性を提供してくれるようです。
詳しくは松井証券の説明資料を参照ください。
参照記事
投信工房 説明資料
■Provenなマーケットに再参入してきた松井証券
SMTシリーズが発売開始された2008年をローコストなインデックス投信の開闢元年とすると、あれから8年が経ちました。現在ではネット証券ではインデックス投信はそれなりのシェアを築いています。
参考として以下は直近のSBI証券の買い付け件数のランキングです。トップ10の中にインデックス投資が5本もランクインしています。
上記でみえるとおり、インデックス投信(+広義にはETFも含めて)には一定のProven(証明された)マーケットがあることを認めたからこそ、松井証券は再参入を決めてきました。
沼に魚がいるとわかったので、そこで再び釣りを始めたわけです。
今や後発組となった松井証券は、上述した投信工房と銘打った利便性でもって参入しようとしていますが、果たして同証券が想い描いたようなシェアを獲得できるでしょうか。
■既存の個人投資家からみた疑問
既存のネット証券を利用してインデックス投信を一定期間積み立て投資してきた市井の個人投資家の目線で、中立的に、冷静に、現実的に考えてみると以下の疑問(松井証券にとっての逆風)が挙げられます。
疑問1)いまから口座を増やす手間をかけられるか
既に松井証券に口座を保有している人や、新しく証券投資を始めようと口座開設するネット証券を選んでいる最中の人、はたまたいくつもの証券口座を同時保有することにためらいのない人など、これらの人々にとって投信工房はとても興味深く、あるいはありがたく思えるサービスでしょう。
しかしすでにSBI証券や楽天証券等に口座を開設済みであり、そこそこの金額の投信を積み立て済みの個人投資家にとって、投信工房があるからといってわざわざ松井証券に新規に口座を追加開設し、手数料と手間をかけて保有証券を移管するほどの決意が湧きおこってくるでしょうか。
別に松井証券でなくても他のネット証券にて、たわらノーロード先進国株式や、<購入・換金手数料無し>ニッセイTOPIXインデックスファンドを買うことは可能だというのに、です。
疑問2)利便性が必ずしも生きてこない
投信工房の説明資料には、リスク許容後の把握に始まり、ポートフォリオの検討、ひいてはモニタリング、リバランスについてまで、その重要性と必要性が語られています。
この説明資料を読んで内容を理解することが出来るほどの金融リテラシーの素養をもつ人、換言すれば松井証券の投信工房のありがたみがわかる人であれば、一方で皮肉なことに投信工房に頼ることなく一連の行動を自ら決めて実践していくことができるのではないでしょうか。
投信工房を通してポートフォリオを構築できる人は、おそらくは投信工房(ロボアドバイザー)がなくともやはりポートフォリオを構築できる人といえます。
疑問3)競合他社が追随してきたときに独自性をいつまで保てるか
投信工房が提供するサービスは今のところユニーク(固有)な内容であり、松井証券の投信販売における強みとなりそうです。しかし今後もしも競合他社が追随してきた場合、松井証券は「そのサービスの強み」をいつまで維持できるでしょうか。
特許申請中であるリバランス積み立てはともかくとして、その他にあるポートフォリオ構築サービスなどについて競合他社も追随して採用してくれば、投信工房=松井証券にとって利便性の優位は急速になくなってくるでしょう。
SBI証券から保有商品を移管したのに、1年後にSBI証券が投信工房と同じサービスを始めた。こんな展開がおこらないとは限りません。
■競争はもっと厳しく、これに挑む必要あり
ちょっと厳しい目線で言えば、十分に魚がいるからとわかって、後からのこのことやってきた漁師の漁具に魚がどれだけ引っかかってくるのか。そんなに甘い競争なのでしょうか。
投信工房の利便性の販促効果が、松井証券の思惑レベルまで発揮されるのか。これまで競争をつづけてきたSBI証券や楽天証券らにこれから割って入ろうとするならば、スタートUPの販促として、例えば割引率がうんと高い投信積み立てキャンペーンを半年間かけて展開する、SBI証券に負けなくらいのマイレージ制度を導入するなど、思わず勢いで松井証券の口座をつくってしまうくらいの魅力的な内容を展開する必要があります。
■まとめ
繰り返しますが、松井証券の「投信工房」は、それ単体で見た時には現時点ではとても利便性に優れたサービスです。
しかし一定期間に他のネット証券を利用してきた個人投資家からみれば、わざわざ保有商品を移管させるインセンティブにまではなるかというとWATANKOには懐疑的です。松井証券における投信販売では、利便性に優れていることに加えて、ここはもう一段、二段の集客方法が必要ではないでしょうか。
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コメント
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他社の追従が楽しみです、私がそうなんですが初心者や面倒臭がりならバランスもいいと思います。バリエーションも増えていますし、信託報酬を頑張って欲しいですけど。
投稿: たんちん | 2016年11月18日 (金) 07時17分
たんちんさん
コメントありがとうございます。
少なくともSBI証券には、何がしかのサービス拡充を期待したいところです。
投稿: WATANKO | 2016年11月19日 (土) 22時02分