借りている部屋の汚し方
(あなたが賃貸する部屋が以前、汚部屋だったら?)
WATANKOは、亡き父が兼業で営んでいた不動産賃貸業を引き継いで十数年になります。その間に色々なトラブルを経験してきました。今回はそんな賃貸の歴史にまたささやかな1ページが加わるお話でございます・・・。
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保有するアパートの管理会社からの電話はいつものとおり突然にかかってきます。それがラブストーリーなら歓迎なのですが、たいていは良くないお知らせです。
WATANKOは、このような知らせにはもう慣れっこであり「やれやれ、管理会社が仕事をろくにやらないで、またぞろオーナーにトラブルシューティングという名のパスをまわしてきたか。蹴り返したろか。」と皮肉に思いつつ、電話にでました。
管理会社の連絡内容は1部屋退去が発生したのだが、入居者が部屋をかなり汚く使っていたようなので修繕費が嵩むとのこと。
どれくらい汚く使っていたのかと聞くと、「汚部屋」とか「ゴミ屋敷」のレベルとのこと。
そこで電話のあった翌日に管理会社の担当と一緒に件の部屋をチェックすることにしました。
翌日出向いてみると、入居者は既に退去済みであり、玄関に入ると、おそらくは食べ物か何かの腐敗物から出たと思われる汁がしみ込んだり、何かベトベトしたものがこびりついた跡があります。
さらに室内にすすむと壁のクロスやクッション床にはカビや得体の知れないシミがたくさん残っていました。通路も居室もキッチンもトイレも浴室も全てです。
このアパートの各部屋には白いクッション床を選んでおり、とても明るい印象であったのですが、そこかしこが見事に汚いグラデーションに染められてしまっていました。
あと部屋にはいくつかのゴミ袋、そして床一面に散らばる毛髪。それはまるで閉店間際の散髪屋の床のようです。
壁やクロスの汚れやたくさんの毛髪だけではありません。落ち着いて嗅覚を研ぎ澄ましますとほのかな酸味を含んだ香りが漂っています。
なんの香り、いや臭い、いや瘴気だろうかと懸命に想像しようとしましたが、ゴミが沢山あった頃はもっとはるかにすごい匂いでしたという管理会社の説明の前に気持ちが悪くなって止めました。
■ゴミ屋敷から退去まで
同行した管理会社の担当から聞いた話は次のとおりです。
「入居者は今年の夏に玄関ドアが閉まらないほど室内にゴミを溜めまくり、同じアパートの他の住民から管理会社にクレームが届いていた。」
「担当が行ってみると部屋中ゴミだらけであり、玄関ドアだけでなく室内のドアもどれもが開けっ放しで閉められない状態になるほどゴミの山であった。」
「管理会社は本人と連絡をとって片付けるように促すも一向に進まず、そこで保証人であり当人の母親に連絡をとると、その母親は東北の実家からわざわざやってきて片付けていく始末であった。」
なおWATANKOは管理会社に対して、そのようなエピソードがあったなら、直ちにオーナーにも連絡をよこしなさいとクレームをつけたことは言うまでもありません。
その入居者が先月、管理会社に退去する旨を突然連絡してきました。賃貸契約に定める事前連絡期限である1ヶ月前ギリギリになっての連絡であります。
ところが結局、退去作業が間に合わず、退去にあたっての立会い確認日になっても入居者は残っており、その後数日たってからようやく退去していきました。
こうして入居者は発つ鳥、後を汚さずどころか大いに汚しまくってスッパリといなくなったわけであります。
■退去費用の精算
さて汚部屋にしていただきました入居者との原状回復費用の精算についてです。
今回の現状回復費用の内訳は主に壁のクロスとクッション床の貼替えであり、これだけで費用総額の7割を占めています。残り3割が室内クリーニング、エアコン洗浄、水周り部品交換、電球交換、残置物処分などです。
これら原状回復費用の総額に対して管理会社が入居者と協議の結果、入居者の負担となった割合は約4分の1に留まりました。それでも預かっている敷金だけでは足りず、追加の支払いをお願いしています。
原状回復費用について、全額はおろか過半すらも入居者には負担できないのかと驚かれる方もいるかと思います。
これについては賃貸物件の退去にあたって国土交通省が発行している原状回復のガイドラインがあり、管理会社としてはこれに沿って執り進めるほかないという事情がありました。
国土交通省 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)
ガイドラインでは費用をかけて元の状態に戻す「原状回復」について、以下のとおり定義しています。
原状回復は、賃借人が借りた当時の状態に戻すものではないということを明確にし、原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損(以下「損耗等」という。)を復旧すること」と定義して、その考え方に沿って基準を策定した。これがガイドラインの設定の基本となる考え方です。「原状回復」とは借りた時点の状態に戻すことではなく、借りていた期間に通常、経年劣化した後の状態から「さらに超えて悪化した分だけ」を戻すこと指しています。
WATANKOのアパートは築9年の物件であり、この入居者は3年目から賃貸して6年間入居していました。新築時点に対してクロスやクッション床はすでに6年の減価償却を終えており、会計・税務上は価値がゼロであります。理屈の上でオーナーは減価償却費を賃料の一部として入居者から回収済みというわけです。
入居者が退去する時点で価値ゼロが妥当とされる資産に対して復旧費用を請求するわけにはいかないのですが、それではあまりにナーナーの負担が大きいため、管理会社としては通常は復旧費用のせめて10%は退去時に交渉して入居者に負担してもらう方針とのことです。
今回の入居者にも同様に交渉して認めてもらいました。その費用も含めた金額が、上述のとおり総額に対して約4分の1となったわけであります。
管理会社としては一応やるべき交渉はやったわけであり、国道交通省のガイドライン遵守を背景とすると、原状復帰費用の回収はWATANKOもこの辺りが限界という印象です。
さて一体、この部屋の入居者はどんな人間かときくと若い女性とのこと。その名前を聞いて、どこか聞き覚えのある名前だと思ったら・・・
(つづく)
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コメント
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気になってガイドラインを読んでみましたが、原材料費はダメだとしても、工事費や人件費はいけるのでは?
なお、経過年数を超えた設備等を含む賃借物件であっても、賃借人は善良な管理者として注意を 払って使用する義務を負っていることは言うまでもなく、そのため、経過年数を超えた設備等であ っても、修繕等の工事に伴う負担が必要となることがあり得ることを賃借人は留意する必要がある。 具体的には、経過年数を超えた設備等であっても、継続して賃貸住宅の設備等として使用可能な場 合があり、このような場合に賃借人が故意・過失により設備等を破損し、使用不能としてしまった 場合には、賃貸住宅の設備等として本来機能していた状態まで戻す、例えば、賃借人がクロスに故 意に行った落書きを消すための費用(工事費や人件費等)などについては、賃借人の負担となるこ とがあるものである。 図
投稿: たわら男爵 | 2018年12月19日 (水) 21時26分
たわら男爵さん
コメントありがとうございました。
確かにガイドラインをきめ細かく適用して、粘り強い交渉をすることで復旧費用を更に少しでも多く回収することはできるかもしれません。
しかしその主体は管理会社であること、私は同社に委託している以上、彼らが真面目に動かなけばいけないし、彼らを説得すること自体がまずもって大変であるし、面倒くさいです。管理会社と入居者との間では協議は既に完了している状態でもありますし。
ここらあたりが専業とは異なるサラリーマン兼業不動産投資家としての活動限界でもあります。
ただ今回の学びとしては、管理会社には入居者と復旧費用の精算の協議に取り掛かる前に、オーナーと下打ち合わせするように依頼することは手立てとしてあり得ると思いましたので、伝えたいと思います。
投稿: WATANKO | 2018年12月19日 (水) 22時11分