(続)新規募集、ただし告知事項あります-他人の不幸は自分の不幸
(前回からの続きです)
WATANKOが所有するアパートの入居者が室内で亡くなりました。当人がいた室内は故人の所有物が撤去され、クリーニングと内装の張替えを行ったのち、新たに入居者募集にかけられます。
そこでは法定にしたがい告知義務(「前の入居者が室内で病死しました。」という情報を開示すること)が生じるわけですが、そうなると部屋を探す人達にとってそのような物件は避けがちになります。
■入居履歴のロンダリング
告知義務においては前の入居者が病死した場合、この事実を次にこの部屋の入居を検討している者に対して事前告知が必要となっています。これはつまり一度誰かが入居してしまえば、その次の入居者に対しては事前の告知義務が無くなると解釈できます。
そこで昔から聞く手法としてオーナーは自分の身内に数カ月だけ入居してもらい(実際に住まなくても契約上だけで賃貸してもらって構いません)、当人の退去後、次の入居者募集にあたって告知義務が無くなるというものです。言ってみれば入居履歴のロンダリング(洗浄)であります。
これは厳しくモラルを問えば、入居者をある意味欺く行為であります。
WATANKOは今時の管理会社の姿勢を確認してみたい関心もあって、まずあえてこのロンダリングを提案してみました。
するとWATANKOからのロンダリング提案に対し管理会社は抵抗を示しました。通常であれば事故物件となってからひとりふたりと入居があり、数年経てば告知義務はなくなっていきます。しかしロンダリングを行って法定の要件を満たしたとしてもわずか数ヶ月程度の期間しか経ていないのであれば、その次に入居を検討する者が現れば管理会社としてはやはりその者にも告知をしたいとのことです。
管理会社の主張からは、告知をしていなくて後で判明してトラブルになることをとにかく避けたい気持ちがありありと感じました。
昔ならば法定の要件を満たしてさえいれば良いだろうという姿勢が通じたかもしれませんが、今ではもっと順法精神が徹底しているようです。
「リスクは極力取りたくないわけか。どうせリスクが顕在化しても全てオーナーにパスして来るくせに。」と嫌味な気持ちをもちつつも、これ以上のゴリ押しもできません。
■管理会社の見解
WATANKOとしては早いところ事故物件に次の入居者が決まり賃料収入を回復させるとともに再入居後の年月を重ねて告知義務をなくしていきたいです。それにいつまでたっても入居が決まらないと他の部屋の入居者への影響も心配になってきます。変な噂でも建てられると怖いです。
これに対しての管理会社の見解は以下の通りでした。
1.WATANKOのアパートがあるこの街は周辺の市町村に比べて賃貸需要が飛び抜けて高い。しかもアパートは歩いて10分のところに大きなショッピングモールがあり利便性が高い。立地条件はそもそも良好である。
2.最近の入居者は入居時の総費用を抑えたい傾向が強まっている。したがい賃料等への感応度は高い。入居時や契約更新時の賃料の減額交渉すらありえる。そういった中では心理的瑕疵よりも賃料等の安さを重視する人も一定数は存在する。
3.心理的瑕疵としての程度をみると、今回は部屋で人が亡くなったとはいえ自殺・他殺ほか怨恨、トラブル絡みでもない。死後の発見も早く部屋に何か痕跡が残ったということもない。影響としては軽い部類であり、入居検討者にとっても心理的瑕疵は比較的小さいと言える。
1.については、WATANKOが10年前にアパート建築に踏み切った根拠でもありますし、2についても最近かねがね実感しています。
ちなみにですが入居者が部屋の外、つまり外出先や入院先等で亡くなっていれば事故物件とはならないとのこと。WATANKOからみれば入居者が例えば室外のどこかで怨恨によって殺害されたとしたら、それも結構な心理的瑕疵になりはしまいかと思いますが。
以上の説明を聞いてWATANKOはアパートの需要が旺盛であることに期待し、賃料等への感応度の高さを根拠として、賃料を引き下げしたうえで募集をかけることにしました。
■賃料の引き下げ
入居者に対するコストメリットを提示する方法としては例えば1ヶ月のフリーレントを用いる手もあります。(代わりに一定期間の入居を義務付けます。)
しかしながらここはとにかくなるべく早く次の入居者を確保し、さらに長く入居してもらうためには、一時的でかつ入居期間が長くなるとメリットが薄れるフリーレントよりも契約期間中ずっと適用され、メリットが続く賃料カットを選ぶことにしました。
賃料カットの結果、長く入居してもらえれば、その後であれば告知義務も消えるでしょう。
さて次は賃料カットの金額ですが、早く入居してもらいたいためには最低どれくらいのカットが必要か。管理会社によると相場から1割程度、さらにはかなり苦戦する場合には2割くらい下げるケースが見られるとのこと。
該当の部屋はワンルーム型で元の賃料はX,6000円、これが現在の築年数と相場ならX,4000円くらいとのこと。そこで今回はここから5,000円カットしてY,9000円としました。なにやらスーパーの値付けみたいですが、X万円を切る賃料は管理会社いわく十分な割安感が出ているそうです。
そして管理会社には入居を検討する者に告知内容を伝える際には、室内で亡くなったといっても単なる病死でありすぐに見つかったので室内に影響はなかった旨をよく強調してほしいと依頼しました。
管理会社もこれを了解し、部屋のクリーニングと内装クロスの張り替えを行ってピカピカにしてから募集をかけるとのことです。通常ならば入居の空白期間を最小限にするためにクリーニング等を済ませる前に次の検討者に見学させて決めてもらうケースも少なくないとのことですが、今回は亡くなった人の生活の痕跡がわかるような状態をみせるのは良くないとの判断です。
あとは募集を開始してから一日でも早く次の入居者が決まることを祈るばかりです。
■他人の不幸は自分の不幸
WATANKOは今回亡くなった入居者を責めるつもりはありません。持ち主が他人である住居であるにもかかわらずそこで自ら死を選んだわけでなはく、また自らが原因となったかもしれない怨恨その他で殺されたわけでもありません。むしろ当人にとってはその死は孤独の中で、突然に訪れたものかもしれないと想像すると無念さも浮かび上がってきます。
しかしそれと同等に考えれば、当人の死によって赤の他人であるWATANKOがダメージを受けるいわれとて本来はありません。WATANKOの私的財産が棄損されて当然という道理は立たないでありましょう。更には事前対策としてこのようなダメージに備えていくらかの割増分の賃料をもらっているわけでもありません。
ところが実際には他人(入居者)の不幸は自分(家主)の不幸につながる可能性は非常に高いです。
今回のエピソードについてこうしてブログにUPしてはいますが、これもまだ今回の入居人の死亡によるダメージが比較的軽い部類であったから多少は冷静でいられます。もしもこれが怨恨殺人事件沙汰の場合、死後長期間経ち腐臭がひどく周囲に知れ渡ってしまった場合であったならその物件の収益はガタ減りあるいは賃貸経営をあきらめざるをえなくなっていたかもしれません。
投資の手法は様々ありますが他人の人生、生き死にに翻弄される投資というのもなかなか怖いです。これで実質利回りが軽く2ケタを超えていればまだしも、そのような物件を獲得するには相当の根気と努力と運が必要です。
あなたの中古ワンルームマンションの入居者は健やかにお住まいですか。
(あとがきにかえて)
住居の賃貸契約における告知義務とその対処については様々な事例、中には微妙なケース、ディープなケースとあり、とてもこの駄ブログ記事では紹介しきれません。
それであってもここに実際におきた一例としてアパート経営者の皆様の参考となれば幸いであります。
« 新規募集、ただし告知事項あります-店子の不幸は家主の不幸 | トップページ | 2019年(令和元年!)5月末運用状況 »
「不動産投資」カテゴリの記事
- 不動産投資家が賃貸駐車場の屋根にあがって修繕した話(2019.09.17)
- 台風のあと、あなたの不動産は大丈夫?(2019.09.10)
- 賃貸派がアパート経営をするときのひとつの矛盾(2019.07.27)
- 不動産投資の実質利回りの速算公式(2019.07.23)
- 新規募集、ただし告知事項あります その3-部屋の清掃・修繕費用にビックリ(2019.07.21)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント