ラーメン店のオーナーは賃料引き下げを考えなかったのか
(写真のラーメンは記事の店とは関係ありません)
WATANKO家の自宅から歩いて5~6分、幹線道路沿いにとあるラーメン店がありました。特に際立った特徴はありませんが、ラーメンの品揃えは結構充実しており、コスパもなかなか良し、そして注文した料理がすぐに出てくるストレスの少ない店でした。
WATANKO家では休日の昼食や夕食の際に、食べたいものにこだわりがなく時間もあまりとれない時はこのラーメン店を時折利用していました。
今日もそんな日であり、WATANKOは家族とこのラーメン店にさしてこだわりのない夕食を済ませに行きました。すると店の入り口ドアに張り紙がありました。それはこのラーメン店が6月10日で閉店するという告知でした。
上述のとおり、このラーメン店はWATANKO家にとってそれなりに利用できる店だったので、閉店は少なからず残念でありました。
告知によると閉店の理由は人材確保が困難であることを背景とした人件費の上昇と経費負担が大きいとのこと。ちゃんと真面目に閉店理由を記すあたりはなかなか立派だなと少し関心しました。
■人件費の増大
飲食店の損益構造は通説では材料費、人件費、その他経費で約3分の1ずつと言われています。このうち材料費を削ればそれは商品の味や品質への悪影響は必至です。味や品質を維持しつつ単位あたり原価を引き下げるためには、例えばかなりの大量仕入れでも実現しないことには難しいでしょう。
次の人件費ですが皆さんご承知のとおり近年の景況を受けて、労働者の時給は状況傾向にあります。最低賃金の全国平均をみると10年前の2007年の673円から10年後の2017年では823円、実に2割強も上がっています。
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飲食店の損益構造に占める人件費の割合が上記のとおり3分の1=33%であるならば、これが2割、つまり33%×20%=6.6ポイントも上昇したことになります。
これがラーメンの価格に反映できればよいのですが、飲食店の中でも競争が激しいといわれるこの業態ではそうそう単純に売値を上げることができる店は限られるでしょう。
■その他とは
材料費、人件費とならんで損益構造の3分の1と占めるとされる「その他」ですが、ここには代表的な項目として店舗賃料(自社保有の場合は店舗の減価償却費)、水道光熱費、損害保険料、備品代などの費用が挙げられます。さらにはもし店舗はチェーン店であれば本部経費の一定割合を間接経費として負担する場合もあるでしょう。
そしてこれら純然たる費用を控除した後の利益もまたここに含まれます。(損益計算書でいえば営業利益あたりが妥当か。)
この「その他」のうちの費用部分を節減しようとしても各々が店舗運営に必要な費用であるため大きな削減は難しいでしょう。
そのような損益構造のもとで前述の人件費の上昇が起きれば、店の収益はひとたまりもありません。
したがって店が手に入れることができる利益はどんどん減っていくことになります。
■店舗オーナーとしてできること
さて件のラーメン店は他の店と同様に人件費の上昇に直面し、損益分岐点売上高(利益ゼロとなる売上高。これを下回れば赤字。)が上がってしまったことは想像に難くはありません。この解消方法のひとつは売上数量(=客数)を伸ばすことによる売上増が実現ですが、件のラーメン店では冒頭に書いたとおり特に際立った特徴はないので客数を増やすことは困難と思われます。
したがって何らかの状況の好転を図ったかもしれませんが、それもうまくいかずとうとう閉店に追い込まれたと予想します。
さてこのラーメン店、実は店舗のオーナーはWATANKO家の近所に住んでいる、とある地主さんです。
このオーナーはラーメン店、正確にはオーナーから店舗を賃借してラーメン店を経営する会社が経営難に陥る状況を見て、何か対策をとったのでしょうか。
同じように店舗を所有し、飲食会社に賃貸してきた経験があるWATANKOはそのようなことをつい想像してしまいます。
ひょっとしたら賃貸先であるラーメン店の経営会社は、人件費の上昇をうけてオーナーに店舗の賃料値下げをお願いしたかもしれません。
もしそのような展開があったのならばオーナーは賃料の値下げに応じるべきでしょうか。
■大事なことは資産の回転率
事業用の不動産を所有し、これを賃貸に供するオーナーにとっては、わざわざ言うまでもなく所有物件からいかに多額の収益をあげるかがポイントとなります。
不動産の収益は事業期間全体でみれば、「賃料単価×賃貸期間」-「取得価格+期間中の維持費用」+「売却価格」の最大化を図るわけです。
このうち売却価格を除けば収入は「賃料単価×賃貸期間」ですが、賃料単価についてはあまり高い価格にこだわると賃貸主が付かない期間が長くなる可能性があります。むしろ賃料単価が想定よりも1、2割低いことよりも、賃貸主が付かない期間が長引くことの方が賃料収入全体に与える影響が大きいです。例えば半年間、賃貸先が付かなかったら収入は年間あたり50%減であり、これは賃料の1、2割の減よりもはるかに多額です。
つまりオーナーは所有する不動産を賃貸に供する期間をできるだけ長く確保する。資産の回転率(稼働率といっても良い)をできるだけ上げることに注力すべきです。
勿論ながら賃料単価が近隣の類似物件よりも著しく低いようでは問題ですが、回転率との組み合わせでもって収益をあげる感覚を忘れてはなりません。
もし賃貸先からの賃料の引き下げに全く応えず、その結果賃貸先が契約解除して撤退してしまい、その後何年も新しい賃貸先が見つからない場合、オーナーにとって収益面のダメージは賃料引き下げに応じた場合よりもはるかに大きいでしょう。
さらにはようやく新しい賃貸先候補が現れてきた場合でも、オーナーが希望するよりも低い賃料を条件として提示する可能性だって十分にあります。
さんざん待ったあげく、結局賃料が安いところしか見つからなかった。
こいつは「賃料単価」も「賃貸期間」も少ない最低のシナリオです。
以上、不動産オーナーは賃料単価も大事だけれども、賃料期間はもっと大事だということを述べました。ですから賃貸先は賃料の値下げをお願いしてきたときは賃料期間(資産の回転率)とのミックスでもって目標とする事業収益にどれだけ近づけることができるかという視点でもって考えたいものです。
■それでも現実は厳しい
ですがそれでも現実には厳しい面があります。通常、売上高にしめる不動産賃貸料は7~8%程度です。仮に8%とした場合、オーナーが賃料を1割引き下げたとしても売上高に占める割合は8%×10%=0.8ポイントです。2割下げても1.6ポイント。人件費の上昇をカバーにするにはかなり足りません。
つまり人件費の上昇をカバーして店の収益を維持するためには、賃料の引き下げだけではなく、賃貸する経営会社が収益拡大と費用逓減の様々な施策を講じる必要があります。オーナーから見ても賃貸先がそのように汗をかくのならば賃料引き下げに応じるハードルが多少なりとも下がるというものでしょう。
さて件のラーメン店のオーナーである地主さんは、賃貸先の苦境について何か相談をうけたのでしょうか。そしてそれにどう応えたのでしょうか。部外者からは内部事情を知るよしもありませんが、事業は結果が全てです。次の賃貸先がどれだけ早く見つかるのか。それ次第で今回の閉店がオーナーにとってどれだけのダメージになるのかを振り返ることができるというものです。
(あとがきにかえて)
しかし常々思うことは、不動産オーナーが事業用不動産を賃貸する場合、その収益面の浮沈はひとえに賃借先の事業の良し悪しにかかっています。もしうまくいかなければその影響は賃貸解除という形でオーナーに降りかかってきます。
値上がりする株を事前に選ぶことが難しいことと同じくらいか、それ以上に賃貸先が長きに渡って繁盛するかどうか見極めることは本当に難しいものです。
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コメント
この記事へのコメントは終了しました。
コメントされてるように賃料の占める割合は少ないのです。
私の貸店舗に入っていたコンビニも年初めに閉店しました。
賃料3割値下げをこちらからも提案しましたが引き止めは無理でした。
本業の売り上げ改善不可とみてスパッと閉店を決めたようです。
さすがコンビニですね、コスト改善でその場しのぎをやる感じはなかったです。
幸いに次のテナントがすぐ決まり、一か月の空き期間で済みましたが
賃料は4割減となりました。
しかし、もともとコンビニ賃料が高かったのでこれでも十分かと納得しています。
さらに、空き店舗のストレスからも解放されるのが何よりです。
投稿: 暇大家 | 2019年5月20日 (月) 19時47分
暇大家さん
コメントありがとうございます。
>空き店舗のストレスからも解放されるのが何よりです
当記事の内容をまさに一言でいうとこれなんです。
投稿: WATANKO | 2019年5月22日 (水) 09時02分