不動産投資の実質利回りの速算公式
個人の不動産投資ブームがここ数年続いてきています。2年前に金融機関が一斉に融資の引き締めを始めた頃から沈静化する向きもあったのですが、引き続き旺盛な一面もまだまだ見られるのかもしれません。
先日もツイッターで個人がマンション投資の契約条件を見る機会がありましたが、そのあまりの低収益性、というか採算性のなさにただただ驚くばかりです。
WATANKOは通常の住居用の不動産投資であれば、表面利回りについて二桁は欲しいと駄ブログ記事で何度か書いてきました。そのくらいの水準でないと、実質利回りの段階でまともな採算性を確保した投資とは言えないからです。
具体的に見てみましょう。
よくある中古ワンルームの投資では表面利回りが5〜6%と謳われております。
例えば以下。都内にある同一の建物で区分売りと賃貸募集の両方がでている事例をみつけました。
都内のとある区分売り物件は16㎡のワンルームで13,800千円。
一方で同じ建物で募集されている賃料は管理費込みで60千円です。
賃料は年間720千円ですから表面利回りは5.2%。他にもいくつか事例をあたってみましたが同じくらいの水準です。
■実質利回りを速算
さて表面利回りから諸々の費用等が差し引かれた後が実質利回りとなります。どのような項目があるでしょうか。中古ワンルーム投資の場合、表面利回りを5%とすると、各項目が利回りをそれぞれ何ポイントくらい削るインパクトがあるでしょうか。ザックリと表してみます。
(1)諸経費込み換算による利回り減
まずもって不動産を取得するためには物件自体の価格に加えて諸費用がかかります。
具体的には仲介手数料、印紙税、司法書士による登記費用、アパートローンの手数料、不動産取得税等々です。(なお左記はすべての項目を網羅したものではありません。為念。)
中古物件では本体価格の10%かかるとみると、つまり表面利回りの約1割、利回り5%なら0.5ポイント引き下げるインパクトがあります。
(2)空室、入居者入替の発生に伴う収益減
ワンルームを自分で手に入れたその日から売却する日までの間、入居率が100%をキープすると考えるのんびり屋さんはほとんどいないでしょう。ましてはこの場合、中古物件ですから物件自体の競争力は新築よりも劣後します。また退去が発生したあと次の入居がすぐに決まったとしても通常は最低1カ月程度の入居の空白期間が生じるものです。
この空室室を仮に10%とみた場合、利回り5%なら1.0ポイント引き下げるインパクトがあります。
なおこれがアパート1棟を所有する場合であれば空室率について20%は見ておいた方が無難でありましょう。
(3)固定資産税
利回り引き下げインパクトはザックリ0.5ポイントとみました。これは地価が高い場所であれば大きくなることは言うまでもありません。またもし地価が上昇したとしても賃料にはなかなか反映しづらいところではあります。
(4)損害保険料
これも利回り引き下げインパクトはザックリ0.5ポイントとみました。付保する場合には合い見積もりをとって少しでも安いところにきめたいです。
(5)借入金利
借入金利は金融機関からどれだけ好条件を引き出すか次第ですが、ここでは現在の高すぎず安すぎずの水準として1.5%とおいてみました。
(6)修繕ほかリスク引当金
利用期間が長引くと設備等が老朽化するなどして修繕や更新の費用が発生します。またそれ以外にも賃貸人の使いっぷりによっては様々な劣化リスクが発生する可能性もあります。
それらに備えて資金をある程度積み立てしておく必要があります。その水準は何とも試算しがたいですが、WATANKOの過去にかかった修繕費用の記憶をもとに0.5ポイントとしてみます。
以上をまとめますと以下のとおりです。
表面利回り
5.0%
(1)諸経費込み換算による利回り減
▲0.5%
(2)空室、入居者入替の発生に伴う収益減
▲0.5%
(3)固定資産税
▲0.5%
(4)損害保険料
▲0.5%
(5)借入金利
▲0.5%
(6)修繕ほかリスク引当金
▲0.5%
実質利回り(上記合計)
1.0%
各項目のポイントは実際にはそれぞれ多少の変動はあるにしても、これらを合計すれば利回りを4%前後押し下げる状況に変わりはありません。
つまり表面利回り5.0%でも、実質利回りはわずか1.0%と低い水準に着地することになります・・・。
ダメ押ししますと、ここから所得税がかかる場合があります。もっともここまで利回りが低いと減価償却費を控除すれば赤字になる可能性が高いですが。
もひとつダメ押ししますと、ひとたび入居者関連のトラブルにかかる費用、人災・天災による予想外の出費などがおきることを考えればこの実質利回り1.0%は実に心もとないです。
上述の中古ワンルームの事例であれば1.0%とは年間たった138千円にすぎません。あらゆるリスクに対処する費用をここから工面するなど一体現実的といえるでしょうか。
■利回り二桁はほしい
これが表面利回り10%ではどうでしょうか。この場合、(1)諸経費込み換算による利回り減、(2)空室、入居者入替の発生に伴う収益減は計算上それぞれ0.5ポイント増えて1.0%、(3)~(6)は据え置きで合計3%。(1)~(6)の合計で5%の控除となり、差し引きの実質利回りはこれで5%となります。
つまり表面利回り10%にてようやく株式投資と同等の利回り水準になるわけであります。ここまでの水準にひとまず到達できるのであれば、不動産投資は株式投資よりも手間がかかりますが、一方で入居が続く間は収益の安定性が見込まれるので、これを手掛ける価値はでてくるでしょう。
しかし本記事で事例として説明した通り、表面利回りが一桁半ば以下の場合では、オーナーの手元には実質的な利益がほとんど残らない格好となります。
表面利回り一桁の不動産投資を検討中の紳士淑女の皆様におかれましてはこの実質利回りの速算公式を頭の隅に入れて物件探しをされんことを強くお勧めいたします。
(あとがきにかえて)
不動産業者が語る利回りはいつもたいてい表面利回りです。ここでとりあげた色々な費用等は物件ごとの違い、個人の裁量、将来変動があるのでカチッと定めにくいことを理由に実質利回りについてはあまり触れたがりません。
不動産業者ならば物件を売り込むのに都合の悪い話をするはずはありませんから当然の行動原理ですね。ブラボー!!
なお末尾に不動産投資の利回りについて取り上げた記事を紹介して本稿の〆とさせていただきます。
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コメント
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とても参考になりました。良記事をありがとうございます。不動産投資はちょっとやってみよう、という感覚ではだめで、だれか導き手がいないとむつかしいな、と改めて思いました。
車の記事も楽しみにしています。いつもありがとうございます。
投稿: ぶたのちょきんばこ | 2019年7月23日 (火) 11時56分
ぶたのちょきんばこさん
いつもご高覧いただきましてありがとうございます。またコメントありがとうございます。
不動産投資はみなさん収益がなんぼになるかとか良い面にしか目が向きませんが、費用面もしっかりと捉えることを忘れちゃいけないですよね。でも良い物件に巡り合う機会を全否定しているわけではありません。じっくり研究されたらいかがでしょうか。
投稿: WATANKO | 2019年7月23日 (火) 21時22分