投資先の分析-企業業績は連結当期純利益でみるにかぎる【Refrain2018】
(企業の経理部の方にとっては釈迦に説法なので、スキップしてください。)
3月決算会社の第2四半期決算が出揃ったところで、株式投資をされる方々は特定の企業について、株を買うべきか、あるいは保有している株を継続するか売るべきかという検討・判断のために業績の分析をされることでしょう。
そこで大変僭越ではこざいますが企業の業績分析のポイントについてほんの少しだけとりあげたいと思います。
業績の分析における重要な指標のひとつは利益額でありますが、損益計算書ではいくつかの段階の利益が記載されています。
各利益の意味するところは数多ある解説資料をご参照いただくとして、ここではシンプルに各利益段階のうち、最もあるいは唯一重要といってよい利益は「連結当期純利益」であることを強調しておきます。
■連結当期純利益でなければならない理由
決算書の分析ガイド的な記事をみると「本業の収益結果を表す営業利益を重視しましょう。」とか「企業の恒常活動の成果をみる経常利益で判断しましょう。」といった指摘が挙げられていることをしばしばみかけます。
その企業が日本国内のみでビジネスを行い、M&Aもせず新規事業も展開しない、資産評価は簿価で許される部分が多い伝統的産業であれば、営業利益や経常利益で収益力を分析・判断してもよいでしょう。
しかし皆さんが投資先候補にあげるような企業とは、グローバリゼーションを積極的に展開し、新規事業やM&Aに臆することなくこれに挑みつつ、一方で収益を押し上げるためには法制度や国内外の税制を高度に活用するなどの経営を行う。
このように様々な経営の技法を用いて企業価値を向上させようとする企業でありましょう。
そうであるならば企業の利益もまたグローバリゼーションや新規事業、M&A等のアクティビティを反映したもので見なければなりませんし、それは時価会計、減損会計、税効果会計等を十分に反映した利益ということになります。
となれば見るべき利益は「連結当期純利益」1本でよく、かつこれが必須といえます。
■具体的な考慮点
売上高から売上原価を差し引いた利益を売上総利益と呼びます。これは業種や企業によっては「粗利」「限界利益」「付加価値」を指しているケースがあります。(厳密にはそれぞれ異なりますが・・・。)
この売上総利益から販売費及び一般管理費(販売、管理、研究などの部門の総費用)を差し引いた利益が営業利益となるわけですが、次に営業利益から最終利益である当期純利益に至るまでには以下の事象(⇒損益項目)があり、現代の企業経営においては無視できないものばかりであります。
●連結対象となる子会社以外であっても事業投資のためにM&Aや出資を行う相手先は存在しえます。こういった連結子会社のみならず事業投資先企業からの収益(あるいは損失)も正しく取り込む必要があります。
⇒営業外損益(持ち分法投資損益、受取配当金など)で発生
●一方で収益だけでなくリスクも捉えねばなりません。事業の先行きが怪しくなればそれにかかわる資産の価値を引き下げて、損失として認定しなければなりません。
⇒特別損益(減損損失、投資事業損失、固定資産除却損など)で発生
●複数年度にわたる事業の収益の算定が大きく見直される(損失が発生する)場合、過年度にかかわる損失分まで当該年度にて一気に影響することがあります。
⇒特別損益(前期あるいは過年度損益修正損)で発生
●海外の税制の影響、さらにはこれに対するタックスプランニングの成果、さらには事業収益の見通しが悪くなれば、繰延税金資産の取り崩しを余儀なくされ、当該年度の税金(試算)額が増えることになります。
⇒法人税や法人税等調整額で発生
営業利益段階ではこれら事象のインパクトは反映されませんし、経常利益段階でも不十分です。そこですべての要素を反映した連結当期純利益を用いるべきであります。
■まとめ
昔であれば営業外損益はせいぜい受取利息・支払利息、所有不動産の賃貸収入・支出くらいだけでほとんど発生無し、資産はもっぱら簿価評価だったので評価損の発生はごく稀、税金はかかってしまうから仕方ないのよねという形で営業利益×本邦の実効税率イコールほぼ当期純利益というシンプルな図式が当てはまるケースが多かったかもしれません。
しかしながら現在は国際的な事業展開を背景として、上述した時価会計、減損会計、税効果会計等を十分に反映した連結当期純利益でないと、企業の成績を正しく測れません。
今やかりそめの利益といっても過言ではない営業利益や経常利益だけで投資判断を下されることのないようご留意願います。
(あとがきにかえて)
わざわざ触れませんでしたが当然ながら業績は単体ではなく連結でみるべきであります。また連結当期純利益は配当金額の算定根拠としてもよく用いられるという視点からみても大事な利益指標であります。
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時折、新聞に書かれた企業決算を知らせる記事を読むと、間違って書かれているケースに出くわすことがあります。〇経新聞ですらも見かけます。企業の決算発表内容をよく理解していないまま記事を書いている記者がいるわけです。
困ったことですが、このような誤った記事を鵜呑みにしないためにも企業の損益計算書の仕組みを十分に理解しておきたいものですね。
これにて今年のRefrainは終わり、駄ブログは次回から平常営業運転に戻ります。
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